『霊魂も来世も存在しない』

 霊魂も来世も信じないパーヤーシ王に対して仏弟子のクマーラ・カッサパがいろいろな譬え話をする対話が阿含経に記録されています。おおよそ次のようなお話です。あらかた、私の独断的解釈で手を加えております。

 

 仏弟子の尊者クマーラ・カッサパは、五百人の修行僧を率いる大集団でコーサラ国の、ある城郭都市を訪れ、その北方の林に滞在した。

 そのころ、パーヤーシという王が、その城郭都市に住んでいた。王は「来世は存在しない。生まれ変わる人もいない。良いことしたって悪いことしたって、そんな報いなんて受けない」という見解をいだいていた。

 一方、その城郭都市のバラモンたちは、仏弟子の尊者クマーラ・カッサパの良い評判を聞きつけ、ぜひ、お目にかかりたい、という思いでいた。そこで、一群の集団となって、仏弟子クマーラ・カッサパが滞在している林へ向かうことになった。

 バーヤーシ王は、バラモンたちが一群の集団となって進んでいる光景を見て、執事に尋ねた。

「みんな何しに行くんだ?」

「はい。沙門ゴータマの弟子で、クマーラ・カッサパという沙門が北方の林に滞在しております。博識聡明で才気あふれる話し手で、経験を積んだ長老、敬われるべき人だという評判でございます。この城郭都市のバラモンたちは、そういう方にぜひ、お目にかかりたいと、訪ねようとしているところであります。」

「なんと愚かな。執事よ、バラモンたちにすぐに伝えよ。『おまえたち、しばし待ちなさい。バーヤーシ王も一緒にまみえるから。』と。沙門クマーラ・カッサパは、『来世がある。生まれ変わりがある。善悪の行いによってその報いを受ける』などと説くだろう。愚かで蒙昧なこの城郭都市のバラモンたちに、そう教える前に、私が沙門クマーラ・カッサパに教えてやるんだ。『本当は来世なんてない。生まれ変わりもない。善悪の行いでその報いを受けることはない』ということをな。」

「ハイ、承知いたしました。」

伝達を受けたバラモンたちは、バーヤーシ王を囲んで、沙門クマーラ・カッサパのところへ訊ね、まみえることになった。そして、パーヤーシ王と尊者クマーラ・カッサパの対話が始まった。

パーヤーシ王は、尊者クマーラ・カッサパにこう言った。

「わたしは『来世は存在しない。生まれ変わる者もいない。善悪の行いによってその報いを受けることもない』という教説を信じ、このような見解をもつ者です。」

「王族のお方よ、わたしは、このような教説、このような見解をいままで見たことも聞いたこともありません。なぜ、そう思うのですか?」

「そう思う論拠があります。」

「それはどのようなものですか?」

「いまかりに、わたしの友、知り合い、親族のなかに悪といわれる行いをしている者たちがいたとしましょう。他日、このものたちが病気にかかって、もはや、かれらは回復する見込みがないと知ったとき、わたしは彼らのもとに行き、『沙門やバラモンたちのなかには、悪といわれる行いをしてきた者は、死後、悪いところ、苦しいところ、地獄に再生するのだという教説を信じるものたちがいる。ところで、あなたは、実に、その悪といわれる行いをしてきたから、もしも、その沙門やバラモンが真実を語っているとすれば、あなたは、死後、悪いところ、苦しいところ、地獄に再生するはずである。もし、そうなったら、すぐにわたしのところへ来て、報告せよ。あなたは、平素から信頼している者だから、あなたの体験は、私自身が体験したことと同じになるだろう。』というと、彼らは『承知しました』と同意しつつも、戻ってきて報告する者はなく、使いもよこさないのです。それが論拠です。」

これに対して、尊者クマーラ・カッサは、どう応えたか、次回に譲ります。

 

参考にさせていただいたのは次の書籍と光明寺経蔵さんのサイトです。

光明寺住職(真宗大谷派所属)さんによる仏典翻訳のサイトです。

 

https://komyojikyozo.web.fc2.com/dnmv/dn23/dn23c01.files/sheet001.htm