賢劫の千仏

 「阿含の星まつり」会場に参道から結界へ抜けるトンネルがあります。参道から向かうトンネルの入口を『現在賢劫門(げんざいけんごうもん)』、結界へ抜ける出口を『未来星宿門(みらいせいしゅくもん)』と阿含宗開祖は名づけられました。

 その名前の由来について、星まつり会場へ取材に来た記者に問われた開祖は、次のようにお話されました。

 古代インドに、地球が破滅に瀕するような大変な危機に陥ったときには、千人の賢人、千人の賢い人が現れて地球を救う、という伝説がございます。伝説というよりも予言と言ったほうがよいと思いますが、この予言は仏教に取り入れられ、いろいろな表現がなされました。その中でいちばん完成された姿が、密教金剛界曼荼羅に表されております。

金剛界曼荼羅に描かれている賢劫の千仏

 地球の危機とは現在のことであり、賢人が現れるのはこれからである。それが『現在賢劫千仏名経』というお経に書かれております。現在賢劫とは、現在は文字どおり現在を表し、賢は賢人、劫は時代・世紀という意味です。

 現在こそ地球が危機に瀕し、千人の賢人がこれから現れて、地球を壊滅から救うときである。われわれは現在を救う賢人になるという意味を込めて、入口を現在賢劫門と名づけました。

 出口、すなわち結界に接している側は未来星宿門となっております。現在賢劫に千人の賢人が現れたらどうなるかというと、『現在賢劫千仏名経』に続く経典である『未来星宿千仏名経』は、未来星宿の名が示すように、未来世界は星々の間に大宇宙文化を築くだろう、千人の賢人が現れて、宇宙星間に素晴らしい宇宙時代を創りあげる、と説いています。

 その未来星宿門を出て結界に入りますが、結界は修行を行う道場です。現在賢劫門、未来星宿門を経て道場に入り、未来と宇宙星間の大都市を建設するための賢人になるべく修行する。そのような考えのもとに、二つの門に名前をつけたわけです。

・・・・[中略]・・・・

 わたくしは、21世紀こそ人類が智慧を磨き、その磨いた智慧を発揮しなければならない時期である、と思っております。

 科学も技術も発達の極に達しましたが、決して人類に安全を与えておりません。便利一本鎗です。便利な生活を目指してまっしぐらに進んできた科学と技術が、いまは人類の生存を脅かそうとしております。

 これを解決するのは、本当に高度な智慧しかない、とわたくしは思うのです。

 いま、人類は智慧を失っております。智慧のない話だと言えばそれまでですが、人類は無限の智慧を持っているはずです。それを発揮し、磨く方法を知らないだけである。

 ところが、仏教の開祖であるお釈迦さまは、人間の本当の智慧を磨き、智慧を高めるという方法をわたくしたちに伝えてくださっております。その方法はいままで世の中に出てこなかっただけであり、阿含宗はそれを世に出そうとしているのです。

 人類最高の産物と言える智慧、最後はこの智慧にすがるしかない。それをわたくしは主張したい。

 仏教はいままで慈悲を説いておりました。しかし、慈悲だけでは救えない時代になってきました。慈悲をいくら実践し、どれほど慈悲や愛を説いても、いまの混乱した世の中を救うことは絶対にできません。

 慈悲を超えたなにか、愛を超えたなにかが必要である。

 それが智慧、とわたくしは確信しております。

 21世紀こそ智慧の時代である。智慧を磨き、世の中をよくする。人間が本当の智慧を持ったならば、争いがなくなるはずです。戦争もなくなるはずです。智慧がないから人間は争って、自分の生活を危うくして、自らの生命を危うくしている。

 智慧こそ命である。

 世界を救う、地球を救う、最後の武器が智慧なのだ。

 そして人類はその智慧を持っている。ただ、その智慧を活用する方法を知らない、智慧を磨く方法を知らない。

 そうわたくしは主張し、日本だけではなく、今度は世界に向けて阿含宗の理念を説こうと思っている次第であります。

 2000年(平成12年)星まつりの記者会見より一部を抜粋

 開祖の目指したその理念の「聖火」を燃え上がらせるために、お許しをいただけるならば、不徳な私でもお手伝いさせていただきたいです。