笑顔を施す

 イエズス会創立者、イグナチオ・ロヨラが語った言葉として興味深い一節を読みました。

 美徳を愛するイグナチオは摂生を重んじながらも食欲と直接関係のある体力に対して積極的な価値評価を下した。一般に修道士がいったとして伝わっている「笑ってふとれ」とはいわなかった。彼は「笑って強くなれ」といった。栄養を十分にとり、強くなって神に仕えるように諭した。

 フランシス・トムソン著『イグナチオとイエズス会』(講談社学術文庫)より

 「笑って強くなれ」

 笑いは免疫力を上げる効果があると言われています。

 ノーマン・カズンズの『笑いと治癒力』はよく知られていますね。

 難病にかかったノーマン・カズンズは、「ネガティブな感情は病気の原因となる」という学説から、「ポジティブな感情は病気を快癒(かいゆ)させる」のではないかと思いつき、四六時中笑おうと努めた結果、症状が劇的に軽減し、数年後には全快したと明かしています。

 確かに、笑いは、ストレスを軽減させる効果を実感します。

 仏教にも、無財の七施*1として和顔施というのがあります。ただ笑う、微笑するというのではなく、人に笑顔を「施す」というところに眼目があります。施して、その場の雰囲気を明るくさせる、気分をよくさせる、楽しい雰囲気にさせることで、はじめて功徳を積んだことになります。

 うれしいとき、楽しいとき、気分のいいときは、笑顔を施すことは簡単ですが、腹が立っているとき、気分が落ち込んでいるとき、そういうときこそ、人に施しができるかどうかが魂の修行になります。

 また、笑顔もうっかり場違いに施しますと、かえって逆効果になりますので、気をつけたいところです。

日に三度笑う

 日課として、一日に三回声をあげて笑うこと。

 アハハハハと笑うこと。

 できたら鏡を見て笑うこと。

 さきほど三毒*2はいわば獣(けもの)の心であるとのべたが、獣は笑うということを知らない。笑うということは人間しかできないのである。・・・(中略)・・・

 人間が人間であるためには鏡を見て笑う。

 一日に三回は、アハハハハと声をあげて鏡を見て笑うことを、かならず実践していただきたいのである。

 『輪廻転生瞑想法Ⅰ』より

 笑って強くなれ!

*1:お金や物もなければ、知識情報もないという人でも、施す心さえあればできる七種類の布施のことで、次のものです。

1.眼施(げんせ)・・・・やさしい眼差しを施す

2.和願施(わがんせ)・・にこやかな笑顔を施す

3.和語施(わごせ)・・・親切で和やかな言葉遣いを施す

4.身施(しんせ)・・・・敬いに満ちた礼儀正しい行動、身体を使う奉仕活動を施す

5.心施(しんせ)・・・・うるわしい思いやりを施す

6.床座施(しょうざぜ)・座席を譲って施す

7.房舎施(ぼうしゃせ)・気持ちのよい待遇を施す

*2:貪(むさぼり)・瞋(いかり)・癡(おろか)という三つの情念のことで、この三つの情念は、自分の心の中から湧き出て、しかも自分の心身を損ねる害毒なので、三毒と呼んで強く戒めています。三つの獣の心でもありますので、三獣心とも呼んでいます。