施す勇気

〝仏法にかなった方法で財利を得たならば、悪業の報いを負わなく、心は安穏になり、心に喜びが生じ、自他ともに利益を得る。このように在家の仏教徒は施しによって福を増すことが多い。〟

《如法に財利を得、負はずして安穏を得、施与して歓喜を得、二俱に皆利を獲。是の如し諸の居士、施に因りて福増して多し。》『中阿含経・貧窮経』より

 人に喜んでもらって財を得る人もいれば、よくない方法によって財をなす人もいます。

 世間には、

「まっとうなことをしていてはお金は貯まらない。儲けようと思ったならば、自分の利益だけ考えて、どこまでもゴリゴリとやっていかなければ、なかなか商売で成功などできるものではない。」

という人がいます。

 しかし、本来、事業の繁栄というものは、「相手の人にいかに便利と喜びを与えるか」を考えて、商売のもととするところから生じるものでしょう。

『プレジデント』2024新春特別号に、次のような記事がありました。ライザップ社長のインタビューです。

運を上げる秘訣は「ギブ」から始めること

 お客様に何の価値も与えていないのに「商品を買ってください」とアプローチしたり、友達にまず、「自分のためにこれをしてくれ」と頼む人は、一度や二度は何とかなっても、すぐに相手から愛想を尽かされます。

 何か手に入れたいものがあっても、まずはギブが先です。ビジネスなら先に社会やお客様が求める価値を提供し、友達なら先に骨を折ってあげます。ギブした直後に「やってあげたから見返りをくれ」と言うのも、テイクを先にするのと同じくよくありません。運を掴むには、「急がば回れ」。黙ってギブを続ければ、放っておいてもいずれ大きなテイクとして返ってきます。

 RIZAPグループは、化粧品や洗顔料の通信販売も行っています。以前、すでに商品をお買い求めのお客様に電話で追加セールスをする組と、電話で使い方や効果だけを説明して、売り込みは一切しない組に分けて、どの選択が最も効果があるのか比較検証するABテストを実施しました。その結果、使い方や効果だけを説明した組の年間購入額が、追加セールスをした組の年間購入額を上回りました。

 ボランティア精神でギブを先にしろということではありません。見返りを求めずにこちらから先に与えるのは、テイクを最大化するための合理的な戦略です。もっとも、これは会社の利益に責任を持つ経営者としての見方です。私個人としては、テイクを最大化するために打算的に動いたことはほとんどありません。というのも、ギブした瞬間に得る「相手の役に立った」「社会に求められていることができた」という精神的な見返りそのものが、私にとってのテイクだからです。この場合に得られるテイクは、「自己肯定感」と言い換えることができます。

 自分が何かの役に立ったという事実は、自己肯定感を高めてくれます。たとえば電車内で、席を譲ったり、エレベーターで「開」ボタンを押し続けて他の人の乗降を助けたり。そういったギブの積み重ねで自己肯定感が増幅すれば、ちょっとのことではへこたれず、前向きに生きていくことができます。

『プレジデント』2024新年特別号より

 仏教では、運を良くする(福を得る)ためには、徳を積むことが強調されます。

 徳を積んでいくことがどうして運を開いていくのか、霊的世界の法則はともかく、この現実の現象世界の見方として、私は、瀬戸社長の次の言葉に注目します。

『自分が何かの役に立ったという事実は、自己肯定感を高めてくれます。・・・そういったギブの積み重ねで自己肯定感が増幅すれば、ちょっとのことではへこたれず、前向きに生きていくことができます。』

 自分に自信を持ち、積極的に困難を切り開く力を得ることが、徳を積んで得られる福のひとつだと私も思います。他の人の便利や、他の人に喜びを与えることを前提にどこまでもゴリゴリと徳を積むことが、私にとって、今、必要なことです。

 人は使命にめざめたとき、真の勇気を持つんです。

 これはどうしても自分がやらなければならないんだ。そう自分に言ってごらんなさい。そうすると、やる勇気が出てくるんです。

 

阿含宗開祖・桐山靖雄管長猊下のご法話より